カウンセリングの期間と回数

初回面接やアセスメント面接で、「終わるまでにどれくらいかかりますか?」 とよく聞かれます。そういう時「人それぞれですね‥」と答えるべきかもしれませんが、そういった返答は相談者を困惑させ、不要な不信感や警戒心、カウンセリングを中断する可能性を高めてしまうことになります。

相談者はこれから、少なくない時間とお金を遣うことになります。効果もリスクも不透明なものはお金を遣うことができないというのが一般的な考え方です。このような相談者の考えは、ごく自然なものであり、当然のことです。かといって、私たちが簡単に答えられるような問いではないのも事実です。

認知行動療法や短期の心理療法は比較的答えやすいと思います。最初から回数を区切って行うものもあります。しかし、カウンセリング(心理療法)では、相談者によって進み具合は大きく異なります。どのようなニーズで行われるか、何を目的とするかによって変わってきます。目的がシフトし期間が延びる場合もあります。

それでも経験上、どれくらいの期間でどのような内容となるのか、ある程度の傾向があるように思います。今回は、カウンセリングや心理療法の期間と内容について、目安をお伝えしたいと思います。

ここではあくまでも私の感覚ですので、条件(臨床現場や介入方法)が異なると当てはまらないこともありますので、ご承知の上でお読み下さい。頻度が違うと期間に対する回数が変わってきてしまうので、今回は週に1回の頻度を想定します。頻度については、別の機会に書きたいと思います。

カウンセリングとは、症状や悩みの背景にあるもののまだ十分に意識されていない、無意識的な葛藤や自分の傾向を知ることでそれらの改善を目指すカウンセリングです。 当相談室でカウンセリングを受けることで短期的に心を回復できるなどというお約束はできません。


アセスメント面接(5回前後)‥

アセスメント面接として4~5回の面接を設けて、悩みや困りごとについて多面的に評価し、最後の面接で詳細な見立てと、私たちが提供できるカウンセリングや心理療法の方法を提案し、目的について話し合います。

相談者にとって、ここまでのカウンセリングは困りごとの背景について心理学的理解を深めることと、カウンセリングやカウンセラーとのお相性を試めす意味があると思います。

逆に言うと、5回前後のカウンセリングでは悩みや困りごとの解決までには行き着きません。例えるなら、旅に出るための準備をしつつ、ガイドの自己紹介を聞き、ざっくりした地図を手渡された、という段階でしょう。

ここで終了するカウンセリングは、地図だけもらって一人で行くことにした、そもそも旅に出る段階ではなかった、別のガイドにしたい、という状況だと思います。それはそれで良いと思います。


4ヶ月~6ヶ月弱‥

目的、方法について説明し、合意が得られ、契約を交わしたとして、4ヶ月から6ヶ月でひとつの山を迎えることが多いです。回数としては15回~20回程度となるでしょうか。

この時期になると、悩みの背景が理解できていたり、表面的な問題が解決してきたり、感情が整ってくることがほとんどです。とりあえず問題を整理したい、一時的に症状がなくなればそれでよいという方はこのあたりで終結となります。しかし、問題の根が深い方は、それでは解決にならないことが多いです。

「問題の根が深い」とは、悩みの内容が幼児期からの親との関係、家庭環境、トラウマに起因している場合や、単発の悩みごとではなく、人生の中で何度も同じような悩みを抱えてきた場合を意味します。そのような場合、この時期は「悩みごとの仕組みは分かったけど、何も変わらない‥」とフラストレーションを感じる時期でもあります。

精神分析的カウンセリングを行っている場合は、そもそも早期の解決を目指すものではないので、同意が得られていたようで得られていなかったことが明らかになる時期といえます。再度、カウンセリング、心理療法を結び直すことが課題となります。


1年半から3年程度‥

この時期になると、ある程度、共通の目的を持って取り組んでいる実感を感じられていると思います。内面の変化が起こって2~3年で終結することもあると思います。

しかし、じっくり時間をかけて進める方や、より広範な内面的変化を求める方、最初の主訴は解決したけれど別の問題に取り組む必要が生じた方は、3年以上続くこともあります。この頃になると、面接の中でその人独特の世界が濃厚に展開しています。いわゆる転移・逆転移の進展です。

敵対的な関係性になってしまう、恋愛感情を抱いてしまう、言いたいことが言えない、知的なお勉強のようになってしまう‥ どのように展開するかは様々です。そこには面接の進展を困難にする危険が潜んでいます。

独特な関係の展開が激しすぎて、相談者が耐えられなくなり中断する、あるいはカウンセラーが耐えられなくなり不適切な言動をとってしまう‥ 逆に心地よい関係性に陥ってしまい、二人とも別れを否認して、不毛な関係を続けてしまう‥ 危険を完全に排除することはできません。

このような危険がまったくないセカウンセリングは嘘っぽいと思います。

しかし、なるべく早く危険を察知し、破局的な状況には至らないよう、カウンセラーはスーパービジョン(助言や指導の方法 )や個人分析を活用し、面接を客観的に振り返る機会を持ち、自分の癖やパーソナリティ傾向を把握するよう努めます。


5年以上‥

いくつもの山を乗り越え、クライエントとカウンセラーの間に深い信頼関係が育まれていることが多いです。5年以上というと、長いと思われるでしょうか。精神分析的カウンセリングとしては、そこまで珍しいことではありません。(ある芸能人は9年間、精神分析を受けていたことが話題になったこともあります)

長期間のカウンセリングや心理療法は依存性を高めるだけではないかと指摘されることがあります。しかし、精神分析的カウンセリング(心理療法)は、依存が生じるほど心地よいものではありません。信頼関係がベースにあるとはいえ、必要以上に欲求が満たされることはなく、直面したくない事実に気づかされます。

そうしているうちに転移・逆転移の展開は行き着くところまで行き着き、解釈されつくします。主観的に内面が随分変わったと感じられ、症状が軽減し、社会適応が良くなっているはずです。その効果は、他のカウンセリング(心理療法)に比べて長期間持続します。

※相談者がカウンセラーに対して抱く無意識的感情を「転移」といいます。クライエントが幼少期に養育者に抱いていた感情が元になっているとされています。カウンセラーが相談者に対して抱く無意識的感情は「逆転移」といいます。 


まとめ‥

当室で行うようなカウンセリングでは、率直に言って5回程度で問題を解決するのは難しいです。専門的な見立てや助言(ザックリした地図)をもらい、後は自分で取り組む場合は5回程度で終わることもできると思います。

表面的な問題、現実的な問題を解決するだけでも、4ヶ月から6ヶ月(15~20回)程度を要します。問題の根っこが深い方や内面的な変化を求める場合は2、3年以上かかることが多いです。

「そんなにかかるの‥」と思われましたか?しかし、困りごとの内容が幼児期からの家庭環境や養育環境に問題がある場合、数十年の歳月をかけて心に刻み込まれています。意識していない部分に気がつき、解きほぐされ、修正されていくには、それなりの月日が必要なのです。

より早期の解決を求める方は、認知行動療法や短期療法を専門に行っている他の相談室を探してみてください。

 逆に、短期間のカウンセリング効果を感じられなかった方は、精神分析的心理療法を専門とする相談室を検討してみてはいかがでしょうか。