母と娘の関係‥
「母娘関係」というのは、女性にとって、永遠のテーマといえるほど大きなものです。カウンセリングをしていると、対人関係や生き方の悩みの根本に母親との関係が影響している方に出会うことがよくあります。
最近は毒親と言われることがありますが、「母の夢を実現するための道具にされた」「母に認められたくて、いい子を演じてきた」「ずっと母の愚痴の聞き役だった」「母に関心を持ってもらえなかった」など、多くは、母親から強いコントロールを受けてきたために、自分らしく生きられない辛さです。その苦悩は、若い世代だけでなく、中高年になっても続くこともよくあります。
表面的には仲の良い母娘であっても、無意識のうちに、母親の顔色を伺ってしまったり、母親を傷つけることを恐れて我慢してしまうということがあるかもしれません。
母親は娘が生まれたときに、同じ女性であることで、娘を自分の分身のように感じてしまいがちです。叶えられなかった夢を娘に託して、もう一度娘としてやり直したいという願いをもつこともあるでしょう。同じ女性だから、気持ちが通じる、わかってもらえるという過剰な期待を持つこともあります。
幼い娘たちは、愛されたい一心で、母親の願いに応えようとします。ほとんどの娘たちは、思春期に反発して、母親から独立した自分自身を築いていきますが、それができずに、親の期待に応え続けると、後になって母親の代理人生を歩まされてきたと苦しむことも少なくありません。
そして、母親の存在が重たいと感じるのは、私はひどい娘なのだろうか、と罪悪感を覚え、母親から独立した「個」を確立するのに大変なエネルギーを要します。
娘が母親から離れようとすると、母からすれば、「娘のためにこんなに一生懸命やってきたのに裏切られた」と、娘に対する怒りが湧き、母娘関係がこじれてしまうことにつながるのです。
そうならないためには、母と娘であっても別個の人格であり、それぞれの人生を生きなければならないということを理解しておく必要があります。
子どもを追い詰める、支配する‥
「これはあなたのためなのよ!」「あなたのことを一番わかっているのは母である私!」「あなたは私がいないとダメなのよ!」
このように、「子どものため」と思っているように見える言動は、実は母親自身の利益や満足のために行われており、子どもを追い詰めて心を支配する、心理的な虐待にもなりかねません。
以前は虐待というと、殴る蹴るなどの身体的虐待ばかりにフォーカスされてきましたが、今は言葉による虐待や、真綿で首を絞めるような心理的虐待、きょうだい間差別といった精神的に追い詰める虐待の数々が表面化しています。
しかしながら、母から娘への行為は、どんなことでも基本的には愛情というフィルターを通して行われています。だから、娘は虐待とは思わないし、もちろん母も虐待とは思っていません。娘はその行為を重荷や疑問に思っても「母が虐待をするわけがない」「そんな風に思うなんて私は悪い子だ」と罪悪感を植え付けられます。
でも、自分の人生がままならなくなったとき、例えば、「自分は他人に比べて仕事が長続きしないし、人間関係も長続きしないけど何かあるのだろうか」と悩んだときなどに、もしかしたら、昔から母に言われてきたことや、されてきたことが関係するのではないだろうかと考えるようになります。知らず知らずのうちに、母に支配されていた自分に気づくのです。
「母に支配される‥」娘の葛藤
なぜ「母と娘」の間にこういった確執が存在してしまうのでしょうか?女性同士は、毎月生理があり、妊娠する、といった女性の身体の特徴を共有しています。
だから母と娘の関係は、母と息子の関係に比べて距離が近い。その分、憎悪も増えるし「この子は私の一部」という執着も生まれるのです。憎悪と執着というのは、ベクトルは反対だけど実際は同じことなのです。
最近、「子どもから搾取する親」の問題が指摘されています。「搾取(さくしゅ/強く押して締めつける )」とは経済学の用語ですが、心理的な虐待を受けた子ども、当事者の立場から新しく用いられるようになった言葉です。子が母から多くのものを奪われている、と実感したからでしょう。
娘の自由を奪う親‥
でも、世の中に搾取しない親はいません。例えば、親の虚栄心から娘をピアニストに育てる、という場合、それは搾取ではないでしょうか?一見すると搾取には見えませんが、これは、「あなたの才能を伸ばすのは、あなたのため!」という言葉によって、平凡な女の子として生きる、娘の自由を母が奪う行為なのです。
きょうだい間の差別も実際にある問題です。子どもが何人かいると、1人だけ他の子とは違う、なんか可愛くない、という、相性の合わない子供の存在が出てくることがあります。それは、比較をするから起こる現象です。
よくあるのは、ジェンダー(性区別)による差別。男の子だけを特別扱いして、長女や妹に対しては酷い扱いをするというケースです。同性の場合、自分の期待通りに育つ子と、自分の思い通りにならない子がいた場合、後者とは相性が悪いと感じ、そこに差別が生まれます。
母親が娘にやりがちなこと‥
当室にも、「母が苦手だ」「母を好きになれない」と打ち明ける女性が多く来られます。女性が自分を好きと感じる自己肯定感や幸福感は、同性である母親の接し方が大きく影響するといわれます。
その最初の分かれ目となるのが、9歳、10歳の頃。9歳、10歳頃の女の子と母親の関係が将来にどう影響するかを詳しくお話します。
「親子関係というのは、母と娘、母と息子、父と娘、父と息子というそれぞれの関係の相互作用です。性別によって、お互いの影響の仕方も異なってきます。中でも、母と娘という関係は、母親が娘にとっていちばん身近な同性のモデルとなるので、影響は大きいのです」
「母親の姿は、将来、娘が感じる幸福感や充実感、結婚相手を選択するときにも影響を与えます。同性モデルとなる母親が、『どういう生き方をしているか』ということが、娘の将来の生き方に関係していくるのです」
小学校低学年時代は、無条件に「ママ大好き!」の時期。生活も母親中心です。しかし、中学年~高学年になると、友達の存在が大きくなって、視野も広がり、冷静な目で母親を見るようになります。
「この時期の体や心の成長は、女の子のほうが男の子より早いのが一般的です。ですから、女の子のほうがよく観察しているし、理解している。そう考えると、9歳、10歳頃の娘に対する母親の接し方というのは、とても重要といえるでしょう」
では、この時期の女の子に対して、母親はどんなことを心がければいいのでしょうか?「この時期、いちばん重要なことは、なんといっても家族の仲がよいことです。この時期に父親と母親の夫婦仲が安定していると、そばにいる娘はそれだけで心理的に安定します」
自分のモデルである母親が、異性である父親と仲良しでいるかどうかは大きなポイント。娘の将来の結婚に対する考え方や、結婚相手の選択に大きな影響を与えるといいます。
「夫婦関係だけでなく、親子関係においても、風通しがよく、居心地のいい家庭であること。これだけで娘が将来抱く幸福感は変わってきます」
夫婦や親子、きょうだい‥ さまざまな家庭関係の中で、お互いが話しやすい状態にあること。たまにはけんかをしても、それぞれを大切に思い合っていること。そんな子ども時代のベースがあれば、娘は将来、大人になったときにも確固たる自己肯定感と幸福感を持つことができます。
「もう少し先のことも予習しておきましょう。中学生くらいになると、子どもは自分らしさ、自分の生き方といったアイデンティティーを強く意識するようになります。
そうなると、同性モデルである母親が、「どういう生き方をしているのか」ということが、娘にとって重要になってくるんです。生き方とは、日常のライフスタイルそのものです。専業主婦なのか、働いているのか、社会に貢献するボランティア活動などをしているのかなど。
母親は、娘にとって生き方をいちばん見近に見ることのできる人です。どんなスタイルであっても、母親が自信を持って生き生きと過ごしている姿は、娘の幸福感にもつながっていきます。
娘が中学生になってから、母親がそれまでのライフスタイルを急に変えるのは難しいことです。母親も、娘が小学生の時期に、もう一度自分の生き方を振り返り、向き合ってみる必要がありそうです。
「最近、自立しているお母さんが少ないように感じます。決して、仕事をしているから自立できているとは限りません。娘から精神的にきちんと自立できているかどうかなのです」
娘のため」を思うあまり、娘が生活のすべて、娘が生きがいになってしまうと、将来の母娘の関係にねじれが生じる恐れがあります。
母親は、同性である娘を自分の分身のように見てしまうことがあります。そんなつもりはなくても、実は自分がやりたかったこと、できなかったことを、娘で実現させたいと思いがちです。
自分の好きな仕事をしてほしい、幸せな家庭を築いてほしいといった人生観。ピアノやバレエ、英会話といった習い事も同様です。スタートは母親の意志であったとしても、今はどうでしょうか? 母親は時には子どもの様子をじっくり見つめてみることが大切です。娘自身が自らそれを楽しんでいるのなら心配はいりませんが、もしそうでない場合は要注意です。
なにより、母親自身が生きがいを持っていることが大切です。それは、娘から自立して、ちゃんと自分の道を歩んでいるということ。娘を生きがいにしていると、将来、せっかく自分で歩こうとしているのに、足を引っ張るようになってしまう。それだけは絶対に嫌ですよね!同性ゆえに、甘えやすい。だからこそ、母親は将来娘に依存してしまう危険があるのです。
将来に大きな影響が‥
最近は、小学生時代をすごくいい子で育ってくる子どもが多いように思います。反抗することもなく、親になんでも従う。でも、このような子は、本当の自分を出せずに、親に合わせているケースも見られます。
本当の自分と、親に合わせている自分の2つの側面を持っています。でも、段々と親に合わせている自分が窮屈になって、中学や高校時代に爆発してしまう。その一例として、不登校になって母親を困らせるような事例は、母親への無意識な抵抗の表れかもしれません。
親の意図に沿うように行動して、自分の気持ちはしまっておく。子どもの頃からこんな我慢を重ねていると、子どもは母親に対して「離れたい」「関わるのはこりごりだ」と思うようになります。
いい年齢の大人になったときに、なんとも気まずく複雑な状態にある母娘も実は多いようです。そうならないためにも、娘が9歳、10歳のころの時期は、将来娘が自立できるように徐々に促す大切な時期であることを、お母さんも自覚したいですね!
最後に、母親がつい娘にしていまいがちだけど、娘への影響を考えると、タブーな行動を3つ紹介します。あなたは大丈夫ですか?
① 過去を悔やむ‥
人生のモデル(お手本)である母親が、自分の選択した道を悔やむ姿を見せることは、娘に不安や迷いを与えることにつながります。過去は過去、今は今とおおらかな心でいてほしいのです。
③ 愚痴を聞いてもらう‥
女の子は口が達者なぶん、聞き上手でもあります。だからつい、愚痴を聞いてもらう。こんなシーンもNGです。父親など家族の愚痴はもってのほか。聞いている娘は決していい思いをしていません。
③ 取り繕う‥
頑張っているお母さんを演じても、娘にはバレバレ。ときには失敗する姿を見せてもいいのです。取り繕ってばかりいると、お母さん自身もストレスを感じます。自然体でいきましょう。
愛媛心理相談室のカウンセリングでは、母と娘の絡まった糸をときほぐし、関係を整理し、あなたらしく生きていくことをサポートします。