自傷行為を乗り越える‥
愛媛心理相談室には、自傷行為を繰り返し行っている人たちが相当な割合で来られています。特に10代から30代の方々がほとんどの割合を占めています。そういった若い人たちの心に向き合いながら、自傷行為を克服できるよう心を支えるカウンセリングを大事にしています。
申し上げるまでもなく、自分の心と体は最も大切にすべきものです。自分の代わりはどこにもありません。しかし、代わりのない自分の体だからこそ、傷つけずにはいられない時がある気持ちを私たちはわかっています。では、どのような時に人は自傷行為をするのでしょうか。その背景には一体何があるのでしょうか。
例えば、自傷行為には、切ったり、焼いたり、殴ったり、打ったりすることがあります。自傷行為は、心理的なストレスや精神疾患などによって引き起こされます。一時的な痛みによって、自分自身に集中することができるため、一時的に安心感や解放感を感じることがありますが、長期的には身体的・精神的な健康に悪影響を与えることがあります。とにかく早く自傷行為をしている人は、医師、カウンセラーの支援を受けることが重要です。
自傷行為は医学的には「自殺は意図していないが、故意に自分を傷つける・害する行為」と定義されています。しかし、自殺の意図は無いとは言うものの、その線引きはとても難しいのです。「リストカットぐらいで死にはしないだろう」という声もしばしば聞かれますが、それは全くの誤解です。
数として多くはありませんが、「死に至る自傷行為」も確実に存在します。また、薬物やアルコールの乱用、摂食障害等「間接的な自傷行為」とされるものもあります。
自傷行為の種類‥
自傷行為と言えば、一番知られているのがリストカットです。しかし、リストカット以外にも身体を傷つける行為は他にも種類があります。
例えば、下記のような行為が挙げられます。
① リストカット・アームカット‥
自傷行為は、リストカットが代表的なものですが、手首以外を傷つける場合も多いです。だいたい手首への自傷が25%、アームカットと言われる上腕への自傷が20%、手のひら20%、手指15%、太もも10%です。
全体でみるとリストカットの割合は4人に1人あるいは4回に1回という割合で、それほど高くはありません。その他の部位の自傷行為を見落とさないようにしましょう。
② 大量服薬‥
市販薬や処方された薬、下剤等の大量摂取です。「オーバードーズ」「OD」とも呼ばれます。アルコールとの併用もしばしば見られます。重度の場合、救急搬送されて胃洗浄等の処置が必要になるケースもあります。
③ 過食嘔吐‥
限界まで食べ物を胃に詰め込み、即座に故意に吐き出します。いわゆる「食べ吐き」です。摂食障害や醜形恐怖が背景にある場合もあります。下剤乱用とあわせて見られる場合も多いです。
④ 抜毛クセ‥
自分で自分の髪の毛を抜く行為です。髪の長い人だと、自分の髪を触るクセがある人もいるでしょう。触るだけなら何の問題もありません。
しかし、抜毛クセの人は抜いてしまいます。それも無意識に、何本も何本も抜いてしまいます。髪だけでなく、眉毛や睫毛を抜く場合もあります。
⑤ 薬物やアルコールの乱用‥
薬物やアルコールの乱用は一見すると自傷行為に見えません。しかし、薬物もアルコールも常用し、長年摂取し続けていくと、それは心身を損傷し、ひいては生命の危険にも及ぶことがあります。
こうした行為は長期にわたる、目に見えにくい自傷と言えるでしょう。
その他にも、アルコールや薬物乱用、拒食や過食などの摂食障害、避妊しない性交渉や援助交際なども、自傷行為に併発している行動だと言えます。
中でも睡眠薬などの薬物を過剰に服用する状態は、自傷行為を超えた自殺企図に近い行動になるでしょう。
このように自傷行為にはリストカット以外にも手段があり、人によってはリストカットをやめたとしても形を変えて自分を傷つけ続けるという状態はよくあります。
そのため、リストカットだけに目を奪われがちな自傷行為ですが、問題の本質を見誤らないように、周りの人は注意深く行為をも守ることが大切です。
自傷行為の原因となるもの‥
自傷行為は様々な要因から引き起こされますが、感情的な苦痛を抑えるためにとられる行為なのです。主に、下記の2つの背景が原因と考えられています。
① 不安や絶望などの辛い感情から逃れたい‥
何かすごくつらい出来事があると絶望のどん底に追いやられ、寝ても覚めてもそのことばかりを考えてしまいます。そのままでは死んでしまうか、心が壊れてしまうかです。
その出来事に囚われて辛い状況から脱する為に、自傷行為を行ってしまうのです。
② 心の痛みを体の痛みに置き換えたい‥
辛い感情が溜まりにたまって持って生き場がなくなった時に、どう処理をしていいのか分からなくなります。そこで一番身近な「自分の心と体」に目を向けなければいけません。
自分の感情(気持ち)は、自分ではなかなか上手くコントロールできるものではありません。なんだかよく分からない心のモヤモヤよりは、カミソリで傷つけた腕の痛み」の方が遥かに分かりやすいと考えてしまうのです。
心の痛みを和らげる方法はリストカット以外にもいくつもあるはずです。しかし、自分の体を傷つける以外の方法を考える力も無くなってしまうのです。
③ 生きていることを実感したい‥
切ったその瞬間、その一瞬だけ辛い気持ちから解放されて心が楽になる、快楽を得る、というのはリストカット経験者からよく聞かれる言葉です。
その一瞬を感じるために、自傷行為を繰り返すようになります。また、痛みを感じたり流れる血を見ることで、自分が生きていることを感じる、というのもよく聞かれます。
共通して言えるのは、強く深い負の感情を抱えていること、「自分の体は傷つけても構わない」という思考の偏りがあることです。
④ 人からのやさしさや心配を得たい‥
自傷をする人は人から無下に扱われたり、評価されなかったり、心配されなかったりしてきたことが多いようです。自傷行為をすることで人からの注目を集めようとするところもあります。これまで得られなかった人から心配されたり、寄り添ってもらえたりすることを得ることができます。
しかし、あまりにも自傷行為が頻回に起こると、周りの人は「またやってる」と気にかけてくれなったりしていきます。すると、もっと酷い傷をつくり、人の気を引こうとします。こうしたことが繰り返され、結果的に孤立してしまうことになるのです。
引き金は負の感情です‥
自傷行為の引き金は、外的なストレスだけではありません。自分の内側に湧いてきたネガティブな感情が原因で引き起こされます。負の感情は、嫌な出来事のあとだけでなく、楽しいことがあとで家に帰って一人になったときにも湧いてきたりします。
また、何もしていなくても、過去のトラウマが蘇ってくれば負の感情に襲われるので、それをかき消そうとして自傷を行うのです。
周りの人は「どんな辛いことがあったの?」と聞くのはよくありません。健常者にはわからない、楽しさの後にくる虚しさ、というものがあるということをわかってあげようとする気持ちが大事なのです。
自傷行為は延命行為なのです‥
負の感情に何もしないと、苦しくて発狂して死んでしまいそうなので、なんとか早く対処しなくてはなりません。そんな中、本人がようやく見つけたものが自傷行為であり、「死にたい」と言っていることとは矛盾しますが、生き延びるために切っているという側面があります。
「自傷行為なんてやめなさい」と伝えることは、本人には「延命行為なんてやめて死んでしまいなさい」と聞こえているとよく言います。自傷行為を止められると、本人が「じゃあ死ぬしかないですね」というのは、そういう心理からなのです。
このような複雑な心理については、カウンセラーの中でも特に自傷行為やパーソナリティ障害に経験を積んでいる方でないと理解できていないでしょう。
自傷行為者へのカウンセリング‥
成人以上で、道具を使う自傷行為の場合、ほとんどの方がパーソナリティ障害です。たまに重い精神疾患の方もいます。
カウンセリングの方法は、パーソナリティ障害へのカウンセリングに準じ、ドロップアウト(社会にうまく適応できなくて離脱すること )の危機を乗り越えて関係を続けていくことがテーマとなります。
稀に、カウンセリング自体が負の感情を引き起こす原因になる場合もあり、自傷行為が一時的に悪化することもあります。こういった時は、家族にとっては心配でしょうが、本人がカウンセリングを継続できるようサポートしてもらえたらと思います。自傷行為という行為から、自分の気持ちを言葉にすることによって、苦悩の解消を目指していきます。
10代の場合は、まだパーソナリティが固定化していないため一過性の場合も多く、パーソナリティ障害とは限りません。自傷は、アーティストやマンガ・アニメのキャラクター達の個性の一つになっている場合があり、憧れを持つ子こどもたちも数多く存在します。その辺の見極めを私たちは観察し、考えていきます。
家族・友人からのご相談をお受けしています‥
まずは、家族の抱えている辛さや本人に言えない気持ちを思うままお話してください。話すのと話さないのとでは、ストレスの溜まり方が全然違うからです。
自傷行為を行う本人だけをカウンセリングに来させても、家族が理解できなければカウンセリングの効果は半減してしまいます。家族が温かくサポートできるように、まずは家族自身の心の状態をよくしていきましょう。
そのうえで、自傷行為をなぜやるのか、心の仕組みや心理を理解していただきます。また、育てる上で不適切な関わり方があったかどうかを振り返り、そのことを本人と共有することも大事なことです。「私たちの育て方が悪かった。ごめんね‥」と単に言葉にして誤っても、それだけではうまくはいきません。
どういう言葉や態度が本人を苦しめてしまっていたのか、お辛いかもしれませんが、私たちと一緒に振り返りながら、変えられるところは変えていきましょう。そういう姿勢を持っていただくことができないと、私たちの力だけでは自傷行為を克服することはいつまで経ってもできません。